インタビュー記事#4 日本の世界競争力を担う人材とは

日本の世界競争力を担う人材とは-国際協働教育の価値と期待-

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リム 本日は、企業のインド進出のコンサルティング等を通じて繁田さんが感じる「企業が求めるこれからの人材」について伺いたいと思います。本学では、国際協働教育プログラムの一つとしてジョイント・ディグリー(JD)プログラムを取り入れ、インド工科大学グワハティ校と修士1専攻、博士2専攻、マレーシア国民大学と博士1専攻を設置しています。私はマレーシア側の専攻の調整担当者をしていますが、日本人学生の博士課程進学率の低さに頭を抱えてます。
早速ですが、企業においてドクター取得者は現在どのように評価されているのでしょうか。

繁田 世界的に見れば、ドクターを持っていないと科学やエンジニアリングでは使えない、というのがトレンドです。一方日本では、博士課程に行った人は日本型の企業文化にはまらないなどという印象を持たれてしまっていて、ニーズのミスマッチが起きているように思いますね。東京では、その点だいぶん変わってきていて、例えば味の素やキリンなどの食品メーカーの大企業では、ドクター出身者の雇用は多いですよ。ただ、地方では、どちらかと言えばドクター出身者というより従順に働いてくれる人たちを基準にしているような、都市によるニーズのギャップも感じます。

リム 学生もドクターを持っていてもマスター出身者と初任給があまり変わらなかったりすると、博士課程の3年間を余分と感じてしまって、ドクターにメリットを感じないという声も聞きます。就職後のキャリアパスの違いがわからないのも起因しているのかなと。

繁田 日本の新卒一括採用システムというのが、おそらく根本的な問題なんです。ITエンジニアに関しては若干変わってきていて、NECや楽天では、年収一律300万円じゃなくて600万円とか1000万円と能力によって差をつけています。でもその他の業種にはあまり波及されてはいないですね。学生から見れば、せっかくドクターまで行ったのにその価値を認めてもらえないのであれば、日本で就職にこだわらなくてもいいんじゃないかとは思いますね。日本と同様に産業はマレーシアやインドにもあります。日本人だから卒業後に必ず日本で仕事を探さなきゃいけないっていう呪縛からはもう解き放たれた方が良いんです。ドクターの価値を見出せるようなキャリアを作らないといけないですよ。
私は必ずしも今の日本の雇用事情に詳しくはないですが、日本の中堅企業では、ドクターを持っているのに研究職やそれを活かした職種として採用されず、営業をしていたりする。それって違うんじゃないのって思います。研究職等ができると言うのは、ある意味一芸じゃないですか。才能も含めて特殊スキルみたいなものですよ。だからこれを売りにできる就職先をきちんと考えるべきなんです。かといって学生に一から道を切り拓けというのは結構酷だと思います。この専攻を出たら、この研究室を出たら、こういうことができますという保証をもとに、企業側にポジションを作ってほしいと伝えていくのは、大学の役割かもしれないですね。

リム 企業が求める戦力を育成するだけでなく、提案するということでしょうか。

繁田 企業からすれば即戦力が欲しいというのは正にその通りなんです。企業がこれから生き残っていくとしたら完全に二極化するしかない。つまり、グローバルで戦える会社なのか海外とは関わらない縮小均衡を求めていく会社の二つだと思います。せっかくJDプログラムというものが確立されているのであれば、大学は国際レベルを目指していく企業の人材供給基地であってほしいですね。海外で暮らしていける、海外の人たちと仕事ができるって、経験していないと怖くてできないんです。この様なプログラムを通じて、海外から留学生が来ているとか、留学をするということが普通になっている学生であれば、企業にとっても魅力に感じると思いますね。

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リム 日本企業の海外進出先というと、人口の関係もあり以前は中国とかインドがあって...最近は多くの日本企業がシンガポールやタイ等、東南アジアに拠点を構えている気がしています。日本企業はどんなところに興味を持って進出しているのでしょうか。

繁田 どうなんですかね。でも、東南アジアは...マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポール、香港に行っても思うんですが、日本のことをよく知っていて日本が好きという方が多いですね。日本の企業の得意なのは、ハイエンドでマージンを取るという商売です。単価が高い商品やサービスを買ってもらいたいんです。それが中国やインドでは価格勝負になってきて、仕組みで量を取りに行くような筋肉質な商売に転換しないといけない。ところが殆どの日本の企業はそれができない。日本の会社はグローバル社会でどうやって生き残るかを考えないといけないですよ。日本の会議室で平均年齢の若いかつスマホネイティブなアジアの人たちのニーズが分かりますか、という話です。そこを根本的に変えない限り日本の会社に将来はないですよ。もちろん変わろうとしている会社はいくつかあります。例えばNECは、なかなか面白いことをやっている会社だと思います。食品では味の素、日清、ヤクルト。あとはユニ・チャームですね。これらの企業はどこに行ってもいますよ。積極的に国際化を志向する会社と繋がれたら面白いと思いますね。それに、これからのマーケットを考えるならインドのことをもっと考えるべきですよ。東南アジア諸国で6億人、インドが13億人。インドは今後も人口増加が予想されていて、15億人になり中国を抜くと見込まれています。

リム 企業が学生を即戦力で期待するというお話がありましたが、日本の若者はストレスに対する免疫が低いとよく言われますね。

繁田 それこそなんでインドからグローバル企業の経営者があんなにも出てくるのかっていうと、やっぱり多様な社会で生き延びる力があるからです。日本人は、特に若い人たちは、多様な社会に行ったとたん疲れちゃう。マレーシアだって、マレー系、中華系、インド系って多様な文化があるじゃないですか。インドは東西南北で全然違うし、グワハティのある北東はまた全然違っていて...要は違うことが当たり前。でも日本の場合は同じことが当たり前で、乾杯にビールを飲むって日本の文化であって、海外にいたら必ずしもそうじゃない。ムスリムだからコーラを頼んで、私はウイスキーが好きだからウイスキーを注文して乾杯。チョイスをするのが当たり前なんですけど、日本の場合は選ぶ前に"セオリー"があるから。例えば時間通りに電車が来ないだとか、約束に遅刻してくるだとか、ベーシックな物事を進めていくところの違いでストレスをためてしまう駐在員もいます。インドもマレーシアも、「まぁ遅刻してきてもしょうがないんじゃない。じゃあ別のことを先にやろうか」なんて感じで、どうしてそうなるかというと多様性に対する許容力の違いだと思うんです。日本人の常識、物差しがあって、そこから外れた瞬間にストレスになるんですね。

リム なるほど。話はちょっと戻りますが、日本には常勤雇用ではないオーバードクターが数多くいると言われています。JDプログラムの学生、特に博士課程のキャリアはどう考えたらよいでしょうか。

繁田 結局のところ、博士取得者の職がないというのはキャリアパスが研究職しか見えていないからだと思うんです。日本では基礎研究部門は予算が削減される方向で進んでいますから、日本で研究職が増えていくというのは考え難いです。それなら海外で研究職をやってもいいんじゃないって思いますよ。日本の食品加工技術とか発酵技術とか、価値があると思うんです。例えば日本では、きゅうりにしても全部同じ長さ同じ太さ同じ形じゃないといけないですよね。もしその技術が海外でも価値になるのであれば、海外で栽培技術の提供をやればいい。日本にも日系企業にもこだわる必要はないんじゃないかと思います。 日本人の学生から見たら、マレーシア、インド、インドネシアって、日本より所得水準が低いと思われているかもしれません。確かに平均してしまうと低いですよ。インドもね、トップ0.05~0.1%の人たちの月収って平均で900万ルピー(約1,400万円)で、トップ5~10%くらいは3000ドル(約33万円)。ものすごい金持ちがいる構造は中国と似ていて、高い人は高いんです。そのポジションを狙いに行ったらどうだろうとは思いますね。例えばタイのCPグループは外国人を多く採用しています。CPで研究開発のそこそこのポジションになれば、それこそ日本にいるより所得は高いところを狙えると思います。もっと視野を広げればいい。ただ、人によってマレーシアに合う人、インドに合う人がいますから、いろんな選択肢があっていいと思います。

リム 世界の学生とポジションを争いに行け、ということですね。

繁田 JDプログラムは、日本だけで通用する人物を育てるというわけではないですよね。JDプログラムの価値としては二つあって、一つ目は大学として企業との連携や学生同士のネットワークを広げること。日本・インド・マレーシア国内で協賛企業・応援企業を作っていけばいいと思いますね。もう一つの価値は、学生に多様な選択肢を見せられることだと思うんです。どうして日本で就職しなくちゃいけないんでしょうか。海外の企業、海外の研究室っていう選択肢もある。もっといろんな選択肢を自由に考えればいいっていう場にしていくべきじゃないかと思いますよ。
日本の企業が生き残っていこうと思ったら、もう国際化しかないんですよ。それをやるための日本の課題は人です。海外で戦える人をどうやって育てていくかというのも大学の役割と言っていいんじゃないかなと思います。

リム 最後に一言、学生にメッセージをお願いします。

繁田 これから先、社会の主流で活躍したいと思ったら「若いうちに国際経験を積んだ方が良いですよ」ということです。国際化する以外、世界の中でポジションを作っていくことはできないですから。

リム お話を伺って、多様性を許容する国際人材の育成の必要性と、国内から世界に視野を広げる必要性を改めて認識することができました。JDプログラムを中軸とした各国との企業連携も進めていければと思います。本日はありがとうございました。

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